第28回「よい絵本」 書目解説

第28回から追加になった絵本 (17点)

※定価は発表当時(2016年7月)のものです

日本の絵本

だいおういかのいかたろう
だいおういかのいかたろうザ・キャビンカンパニー 作・絵
鈴木出版 2015(2014)
〔29〕p 27×22cm (ひまわりえほんシリーズ)
本体価格1200円
程度:幼児
 【寒い冬の日にゆめたくんが出会ったのは、湖で凍っただいおういかのいかたろう! ゆめたくんは園へ急ぎ、大きな大きなポットにお湯を入れ、みんなで力を合わせて運びます。お湯を注いでいかたろうを助けると、お礼に寒さが吹っ飛ぶいかダンスを教えてくれました。みんなもいっしょに「いかっ いかっ へい♪」】
 ベニヤ板にカラフルなアクリル絵の具と鉛筆で描き重ねることで、木目がアクセントとなり、豊かな風合いを出しています。書き文字も独特で作品世界にマッチしています。大胆で奔放な構図、造形は、まるで子どもの自由な頭の中を覗いているようです。一見計算なく描いたように見えますが、実にデザイン的で完成度が高く、画面いっぱいに楽しさが溢れています。「いかダンス」の歌は一度聴いたら忘れられないインパクトがあり、振りの楽しさもあります。大学で教育学を学び、絵本の読み聞かせや絵画や工作のワークショップを多く手掛け、子どもたちと触れ合う活動を大切にしているユニットならではの仕掛けや遊び心たっぷりな作品群は、多くの子どもたちを虜にすることでしょう。(井藤)
こうさぎと4ほんのマフラー
こうさぎと4ほんのマフラーわたりむつこ 作 でくねいく 絵
のら書店 2015(2013)
40p 26×21cm 
本体価格1600円
程度:小低
 【こうさぎ4兄妹のところに、おばあちゃんから4本の手編みのマフラーが届きました。雪がやむと、4ひきはマフラーを巻いて森へ出かけ、ぶなじいに会いに行きます。はぐれないようにマフラーをつないで歩き、凍えているぶなじいを見つけると、マフラーで温めてあげました。すると、きらきらと氷のはなびらが歌いながら木の周りを舞い踊りました。】
 わたりむつこの優しく語りかけるような美しい物語は、季節感溢れる自然の空気を感じさせます。さらに、でくねいくが透明感ある色彩、繊細で格調高い画風で、しんと寒い静謐な白銀の世界を描き、物語に奥行きと深みを出しています。毛一本一本まで細やかに描いたこうさぎ、木々に降り積もる雪の重さ、陽の光に照らされてキラキラ光る氷の結晶、雪で霞んだ空気感まで、冬の森での優しい出来事とともに味わい深くしっとりと心に残ります。
 4ひきのこうさぎきょうだいのシリーズで、春を描いた作品『もりのおとぶくろ』は、春の爽やかな森の風や水の音、はっぱのお話や鳥の歌声を優しく運んでくれます。(井藤)
30000このすいか
30000このすいかあきびんご 作
くもん出版 (2015)
〔31〕p 27×22cm 
本体価格1300円
程度:小低
 【山に囲まれた広い畑でのんびりと育つのは30000個のすいか。ところが、ある日、カラスたちが、明日にでも市場に連れて行かれて食べられてしまう、と話しているのを聞いてすいかたちは大慌て。夜更けて、30000個のすいかの大脱走が始まります。山道をおおいつくし、夜も昼も「いち に さん し ごーろごろ。にい に さん し ごーろごろ」。行き着いた先には、海を鮮やかに染めて沈んでいく夕日が待っていました。】
 絵本『したのどうぶつえん』で知られるあきびんごは、美しい色彩が特徴的な日本画家でもあります。自らの内なる絵本の既成概念を破って楽しく作ったという本書は、鮮やかな彩色とともに、毛糸や布のコラージュ等、膨大な時間とエネルギーが凝縮された、質感のある独特な絵画世界を展開しています。逃走の果て、大胆な「変体」を遂げるすいかの生々しい姿はいささかグロテスクでもあり、読者をあーっと言わせます。想像を超える発想の意外さ、リズミカルで今日的な言葉使いの面白さなど、ナンセンス絵本の王様と言われた故長新太を彷彿させるものがあります。(竹迫)
はっきょいどーん
はっきょいどーんやまもとななこ 作
講談社 2016(2015)
〔32〕p 31×22cm (講談社の創作絵本)
本体価格1400円
程度:小低
 【最強の横綱武留(ぶる)道山(どうざん)に小兵力士明(あけ)の海(うみ)が挑む、大相撲の優勝を懸けた大一番。「どーん!」とぶつかって行く明の海。「ばちーん!」と頬を張られても踏ん張って「がしっ」と組み、絶対に負けるものかと力を振り絞ります。果たして勝負の行方は......。】
 大半を墨で、力強く相撲の勝負を描いた絵本です。両力士の土俵に上がる姿や立会いの俯瞰図から明らかな体格の差がわかり、読者の緊張が高まります。互いにむき出しの闘志、明の海の必死に耐える顔、大きなお尻や力の入った腕や足などの局所に超アップで迫ります。正面から背面からとアングルを自在に変えて。土を踏む足音や汗や息遣いが伝わってきます。圧倒的臨場感です。「がしっ」「ぐいっ」「はぁはぁ」などの擬音語や言葉を、墨の書き文字の大きさを変化させ配置にも工夫しています。これも、臨場感に絶大な効果をもたらしています。ぐいぐい引き込まれ、明の海の奮闘に手に汗握り応援せずにはいられないでしょう。
 さらに興味が広がれば、見返しの「決まり手八十二手」「禁じ手八手」の絵図一覧が大いに役立ちます。(帆足)
みずくみに
みずくみに飯野和好 絵と文
小峰書店 2015(2014)
〔32〕p 28×22cm (にじいろえほん)
本体価格1400円
程度:小低
 【「ちよちゃんは おじいさんに つくってもらった たけのすいとうを もって かんこん かんこん」険しい山道を登って沢の水を汲みに行きます。ちよちゃんや里山の動物、里の人たちは、おいしい水を「ごくごくごくごく」】
 おいしい水をごくごく飲んだ記憶はありますか? 今では、水道の蛇口をひねれば、手軽に飲む事ができますし、おいしい水と銘打ったミネラルウオーターも多く販売されていますが。飯野和好が苦労してたどり着いた沢の水の記憶、子ども時代の「ごくごくごくごく」した幸福な記憶をベースに創作した絵本です。田んぼで働く家族や愛犬、鳥やトンボや蛙やトカゲや蛇や蟻たち、そして草木の1本1枚が、水によって生かされているのを感得できます。「ちーいちーいちゅるるるるる」「すうーっすうーっ」「ぴちゅぴちゅ」多彩でリズミカルなオノマトペに五感が刺激され、変化に富んだページ構成に誘われて、「すうーっすうーっ」とお話に引き込まれます。土の匂いや木々を抜ける風、陽の光、沢の水の冷たさを感じ、喉が潤うような読後感に包まれます。(濱松)
うそ
うそ中川ひろたか 作 ミロコマチコ 絵
金の星社 2015(2014)
〔32〕p 25×22cm 
本体価格1300円
程度:小中
 【男の子は考えました。「うそつきは、ドロボーの はじまりって いわれるけど うそを ついてない ひとなんて いる?」と。おかあさんは25歳と言っているけど本当は38歳なんだ。ぼくも傘を置き忘れたのに盗まれたと言ったし、おねしょしたのに水をこぼしたと言った。あっちゃんはお父さんのことを総理大臣だと言ってるけどあれはぜったいうそだ。】
 本物らしく見せるテレビドラマのセット、レストランの店頭に飾られる食品サンプル、さらにはイソップ寓話の「狼と羊飼い」、グリム童話の「白雪姫」「七匹の子ヤギ」等々、いろいろな場面のうそを例示し、最後のページで読者に「うそって なんだろう。」「ひとって なんだろう。」と問いかけます。著者の「はじめてのテツガク絵本」シリーズ第3弾(金の星社)です。伸びやかで力強く迫力のある絵が、読者を引きつけて離しません。特定の主張や結論を押し付けるのではなく、著者はあくまで子どもたちに問題をなげかけています。この絵本をもとに、クラスで子どもたちが自由な討議をするのもおもしろいかもしれません。(紺野)
12にんのいちにち
12にんのいちにち杉田比呂美 作
あすなろ書房 2015(2014)
〔31〕p 30×22cm 
本体価格1400円
程度:小中
 朝6時から翌日の朝6時までの24時間、町に住む12人の2時間ごとの生活を描いています。12人の住む町は、中心に大きな川が流れ、憩いの場所である公園と動物園があります。環境の良い文化的な町に住む、小学生、小説家、パン屋、看護師、あかちゃん、ライオン、音楽家の像...といった年齢も仕事も実にさまざまな12人が、12分割されたコマ割りの定位置に描かれて、ページをめくるごとに全体を見ながら生活の流れが分かります。
 ページごとに人々と町の様子(下に描かれた街並みはぐるっと一周しています)を楽しむ方法と、特定の一枠を注目して時間の流れを追いながら縦に楽しむ方法もあります。さらに12人の生活は少しずつ関わっていて、関連ある場面はコマ割りが大きく変化し複雑な展開が楽しめます。人の生活は他者との関わりの中で行われるもので、意識をしなくてもさまざまに影響しながら営まれていることを改めて知ることができるでしょう。
 作者は、忘れかけているが誰もが持っている大切な記憶などをテーマにした、詩的な作品を多く描いています。(山中)
タケノコごはん
タケノコごはん大島渚 文 伊藤秀男 絵
ポプラ社 2016(2015)
〔43〕p 25×25cm (ポプラ社の絵本)
本体価格1300円
程度:小中
 【ケンカに強いさかいくんという子がいました。さかいくんは戦死したおとうさんの葬式でも涙ひとつみせませんでした。太平洋戦争が始まると担任の先生も出征しました。代わりにきた色白でやさしい先生のことがみな大好きで、よく宿直室に遊びに行きました。ところがこの先生も戦争に行くことになったのです。お別れに先生の家に押しかけると先生は子どもたちの来訪に驚きながらも、炊きたてのタケノコご飯をごちそうしてくれました。】
 映画監督の大島渚が、息子武の小学生のころの宿題に応えて自身の子ども時代の思い出を書いた文章が、絵本になりました。背景は日中戦争から太平洋戦争へと突き進んだころ。表紙と表見返しには原っぱで戦争ごっこをしている子どもたちが描かれています。当時を綿密に調べて骨太の力強い筆致で、しかも細部まできちんと描き上げた絵で物語が展開されます。当時の日々を淡々と語る物語とあいまって戦争の愚かさ悲しさを強く伝えています。「先生、戦争なんかいくなよっ」と泣きながら叫んださかいくんの言葉が胸にひびきます。(紺野)
ふしぎなともだち
ふしぎなともだちたじまゆきひこ 作
くもん出版 2015(2014)
〔40〕p 26×26cm 
本体価格1500円
程度:小中
 【島の小学校に転校してきたゆうすけは、始業式の日にやっくんと出会いました。やっくんには自閉症という障がいがあり、ひとりごとを言ったり、高い所にのぼったりします。大声を出してしまうこともあります。そんなときでもクラスのみんなはやっくんの存在を自然に受け入れています。最初はやっくんの行動にとまどうゆうすけでしたが、しだいにやっくんと心を通わせるようになっていきます。】
 この島でともに学び、ともに育ってきたふたりがこの島で働き始め、青年へと成長するようすを描いています。ここでは自閉症のやっくんが島の人々やゆうすけによって助けられ、守られている、という一方的な関係で描かれているのではありません。
 ゆうすけが仕事で失敗してしかられたときなどは、やっくんがゆうすけに寄り添っています。お互いが「ことばではなしができなくても、心はわかりあえる」存在なのです。
 島の美しい風景が型染めの素朴な風合いで描かれていて魅力的です。(小林)

外国の絵本

まって
まってアントワネット・ポーティス 作 椎名かおる 訳
あすなろ書房 2016(2015)
〔32〕p 19×26cm 
本体価格1300円
程度:幼児
 【お母さんは急いでいるのに、子どもは「まって。」と散歩中の犬や公園のカモ、アイス屋など気になることがいっぱいです。子どもが「まって。」というたびに、お母さんは「いそがないと!」「まてないの!」と先を急いで手を引きます。電車に乗ろうとした時も「まって。」―ほら、空にはきれいな虹がかかっています。】
 子どもの「まって。」に対し母親の「急いで!」という少ない言葉ですが、ページが進むごとにだんだんフォントが大きくなり、母親の急いている切羽詰まった思いが伝わってきます。けれども、子どもの視線の先には、生活の中の何気ない楽しさ、発見があります。レインボーアイスと虹、花と蝶、傘の柄など、子どもの視点、連想がつながる細やかな配慮、仕掛けがある丁寧な作りと、ぐっと子どもの目線に寄って上下を大胆にカットした横長の判型が効果的で、大人とは違った低い位置、細やかな点に子どもの興味、世界が広がっていることが伝わってきます。時間に追われる現代社会の中で、ちょっと立ち止まり、ささやかだけれど素敵なことに目を向けてみようと思わせてくれます。(井藤)
あたし、メラハファがほしいな:さばくのくにモーリタニアのおはなし
あたし、メラハファがほしいなケリー・クネイン 文 ホダー・ハッダーディ 絵 こだまともこ 訳
光村教育図書 (2014)
〔30,2〕p 26×26cm 
本体価格1300円
程度:小低
 【ここは砂漠の国、モーリタニア。この国で女性は「メラハファ」と呼ばれる色とりどりの美しい布を身にまといます。ライム色やマンゴー色のメラハファにあこがれる女の子は「あたし、メラハファが ほしいな」とおかあさんやおねえさんたちに頼んでみます。けれども、みんなは笑って行ってしまうばかりです。】
 おしゃれにあこがれてちょっぴり背伸びをしてみたい、という女の子の気持ちは国や文化が異なっても世界共通のようです。この絵本に登場する女の子も、メラハファを身につけた年長の女性たちがきれいに見えたり、大人っぽく見えたり、秘密めいて見えたりするので、自分でも身につけたくてしかたありません。しかし、メラハファはおしゃれのためのものではなく、この国の女性たちがはるか昔から伝えてきた大切な意味があったのです。
 この絵本は、必ずしも日本人になじみが深いとは言えない国や文化と出会う窓口としての役割を果たしてくれます。色鮮やかな絵と、詩のようなことばがエキゾティックな雰囲気をかもし出しています。(小林)
おひめさまはねむりたくないけれど
おひめさまはねむりたくないけれどメアリー・ルージュ さく パメラ・ザガレンスキー え 浜崎絵梨 やく
そうえん社 2016(2015)
〔33〕p 24×29cm (そうえんしゃ・世界のえほん)
本体価格1400円
程度:小低
 【キックスケーターに乗り、お気に入りの人形たちといつまでも遊んでいたいおひめさまは、「わたし まだ ねむたくないもん」とおうさまとおきさきさまに言います。そしておひめさまは、みんな寝るのかとたずねます。「一日が終わると、世界中の命が眠りにつくのよ」と静かに語りかけるおきさきさま。するとおひめさまは、寝るのが大好きなトラの話を得意げに話し始め......】
 子ども向けの「おやすみなさい絵本」ですが、画面のすみずみまで工夫されたセンスある描写は、さまざまな年齢にも楽しめます。無理強いせずに、優しく眠りへと誘ってくれる大人の姿は、子どもを一人の人として尊重している愛情の深さを感じさせます。画面は、油絵のように色を重ねることで重厚さを出しています。さらに重ねた色を効果的に削り取ることで、複雑な色合いが独特の世界観を表現しています。
 たくさんの色やコラージュなどが使われていても雑然としないのは、全体を通して、夢の世界への導入といったゆったりと優しい時間の流れをモチーフにしているからでしょう。(山中)
クレヨンからのおねがい!
クレヨンからのおねがい!ドリュー・デイウォルト 文 オリヴァー・ジェファーズ 絵 木坂涼 訳
ほるぷ出版 2015(2014)
〔33〕p 27×27cm 
本体価格1500円
程度:小低
 【ケビンが絵を描こうとすると、クレヨンの箱の上に「ケビンへ」と書かれたたくさんの手紙があります。クレヨンからの手紙です。自分は働き過ぎという赤。丁寧に塗ってと紫。自分こそお日様の色だと主張する黄色と橙。ちっとも使ってくれないと桃色。12色のクレヨンが、思い思いの気持ちを手紙に書いています。】
 クレヨンの手紙から、ケビンは、青をたくさん使うとか、灰色で象を塗るのが好きだとか、うす橙クレヨンの体の紙を全部はいでしまったとか、ケビンの絵を描くときの好みや様子が見えてきます。それぞれの色で手書きにした手紙は、写真で見せているので、実在感が高まり手紙の主に親しみが増します。そして、なんと言っても楽しいのは、手紙の個性的な語り口です。少し乱暴だったり、丁寧だったり、気取っていたりしますが、色にぴったりの個性で生き生きと語ります。愛さずにはいらないキャラクターです。これがこの絵本の大きな魅力で、翻訳の力を感じます。
 読者もクレヨンの言い分を楽しみしながら、自分のクレヨンを振り返り、その声を聴いてみたくなることでしょう。(帆足)
ヨハンナの電車のたび
ヨハンナの電車のたびカトリーン・シェーラー 作 松永美穂 訳
西村書店東京出版編集部  2016(2014)
〔44〕p 25×28cm 
本体価格1500円
程度:小中
 作家が画机の上に紙を広げ、絵を描くところからはじまるこの絵本は、登場するブタと作家との会話で、物語が進んでいくというユニークなもの。この不思議な手法は、読者も一緒に絵本作りの一翼を担っているような気持ちにさせます。
 舞台は電車の中。ひとつめの部屋にはウシが、ふたつめにはイヌが、みっつめにはヤギがいて、その次の部屋には、ひとりぼっちでさみしそうなブタ。作者は、ブタの注文に応えて、体に黒い模様を描いたり、素敵なチェックの洋服を着せたり、時間を遡って場面を描き変え物語を修正したり。やがて、登場人物たちは独自に動きだし、名前のないブタは、隣のヤギに相談して、ヨハンナという素敵な名前まで獲得します。
 鉛筆によるデッサン画を狂言回しのようにして、着彩された絵がストーリーを展開します。読者である子どもたちは、まるで作家と対話するかのように、また、時にはブタと自分を同化させて、この絵本を読みます。こうした世界は、言語障害の子どもたちに美術を教えているという作家ならではかもしれません。(竹迫)

知識の絵本

ほね・ホネ・がいこつ!
ほね・ホネ・がいこつ!中川ひろたか 文 スズキコージ 絵
保育社 2014(2013)
〔26〕p 25×22cm (すごいぞ!ぼくらのからだシリーズ)
本体価格1200円
程度:小低
 【鉄棒から落っこちたぼくは、レントゲン写真を見てびっくり。「ぼくの ほねって がいこつだったんだ」。ぼくは、はじめて「骨」について知ることになります。頭蓋骨がなければ、大事な脳がやられてしまうし、胸のあばら骨も、心臓とか肺とか大事な器官を守ってくれている。「ほねが なかったら、たってられないし、へにゃって なっちゃうわ」とお母さん。「ほねって えらいんだ」と、ぼくは気づきます。】
 近年、子どもの骨折率が増加している現状から、骨の役割、大切さや骨のために必要な栄養素も知らせる知識の絵本です。スズキコージが描くと、科学絵本も大層アーティスティックになります。骸骨の陰影を英字新聞のコラージュで表現し、食卓に並んだ料理は食材写真をコラージュして、ドローイング、ペインティングと重ねて画面に独特の立体感と奥行きを与えています。
 中川ひろたかは、説明的、解説的になりやすい内容を、会話を中心にした短い言葉でわかりやすく伝えます。色とりどりの骸骨が踊るエンディングには、子どもたちも思わず踊り出しそうです。(竹迫)
みずたまのたび
みずたまのたびアンヌ・クロザ さく こだましおり やく
西村書店東京出版編集部  2016(2015)
〔39〕p 23×19cm 
本体価格1300円
程度:小低
 【ネコが水をのんだ後のボウルに残った一粒の水玉。太陽に温められ水蒸気となって雲の中へ。雲とともに風に運ばれ高く遠くへ。山にぶつかり、冷やされ、雪になり、再び地上へ。溶けて地中にしみ込み川から海へ、そしてまた雲に、それがまた......。】
 水道の水、川や海の水、雨や雪など、私たちに身近な存在のそれらは、さまざまな姿をした水で、すべてつながっているのです。この地球を巡る水の状態の変化と循環を、一粒の水玉の冒険物語として描いています。水の循環は決して単純ではなく、さまざまな気象現象に左右され、さまざまな命と出会う、まさに壮大な冒険の旅なのです。シャープな切り絵にも似たシンプルで象徴的なイラストで、水が旅の途中で出会う風、雲、草花、水鳥、魚などの自然や動植物をそれぞれの状況や場面の中で描き、自然界に息づく命を静かに伝えて印象的です。シンプルなだけに、よりイメージが広がり、大きな世界を感じとることができます。一人称で優しく語る文章とともに、心にしみ込むように理解でき感動が残ることでしょう。水への尽きない興味へとつながっていきます。(帆足)
ゆらゆらチンアナゴ
ゆらゆらチンアナゴ横塚眞己人 しゃしん 江口絵理 ぶん
ほるぷ出版 2016(2014)
31p 21×23cm (ほるぷ水族館えほん)
本体価格1300円
程度:小低
 珍しい意味のチンではなく、犬の狆(ちん)に似ているアナゴだからチンアナゴといいます。確かに正面から見ると目が離れていて、鼻が上を向いたところが似ています。名づけた人の発想力に感心です。チンアナゴは体の半分を砂地に埋めたまま、まるでつくしやアスパラガスのように上に伸び、ヘビのようにゆらゆら揺れているユニークな魚です。埋まったまま食事をしたり、仲間と絡みあってけんかをしたり、それでいて離れたくないといった生態が紹介されています。本を開くと見返しに愉快なチンアナゴたちのイラストが出迎え、この本は普通の生物写真集ではないと期待させます。さらに画面の中のカクレクマノミとイソギンチャクのイラストが、見る人の心の声を絶妙にコメントしてくれます。巻末にチンアナゴQ&Aがあり、なぜ同じ方向を向いているのか?とかどこの水族館で見られるのか?などの質問に丁寧に答えてくれます。
 写真のレイアウト構成が工夫されていて、文と写真とが一体化され、ストーリーが自然に流れます。ユニークなチンアナゴの生態を、楽しみながら知ることができる知識の絵本です。(山中)
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